「組織論」第3部・・その2

「第2話」・・「組織改革への道」を探る・・

~ H県 Ky委員会の「人事破壊」から考える ~

 

「組織硬直化と官僚化への対応」

前近代的な血縁・地縁の人事硬直化から抜け出た現代的な組織でも、前に述べたように学校系列や職場系列での人事硬直化を起こしますが、この状況への対応としては、これまで既に「組織論 第1部・第2部」で述べたように「重層柔構造」の組織改善が求められますが、もう一つは、「人事破壊」が有効だというのが識者の意見です。この「重層柔構造」については後で述べることとして、まずは「人事破壊」について考えてみます。

1:「人事破壊」について・・通常人事の激変ということ

日下公人氏はその著『人事破壊』で、系列的な人事を一旦止めてしまうことが組織改善には必要だと述べています。系列人事を止めるということは、組織の継続性を求める人事を止めて他の場からの人材登用を行うことです。彼は、この著書で「人事破壊第5波・・先端分野は人本主義」として、組織の最先端を切り開くのは、機械でも半導体でもないし、もちろん立派なオフィスでも金でもない、人間の力であると述べている。その「人のあり方」を決めるのが人事であり、その人事が硬直化しない取り組みが組織改革の要であることは間違いないのです。・・人事の硬直化は、古くからの、血縁では「身分制」、それに地縁などの要素が入った「門閥制」、これらの改革としての学校教育であったが、そこでの固定化で起きた「学閥」、さらに、より現代的に学閥を越えた職場仲間であったがそこでの仲間意識が固定化した「職場閥(仲間縁)」があります。

現代的な人事は、身分でも門閥でもなく、さらには学閥さえも超え出た段階に来ていますが、職場での系列化での固定化は起こりうることです。ここでの人事刷新は、それだけに、職場閥を超え出たものとなります。こうして系列外から迎える異質な人材は、俗に言う「ヨソ者・若者・バカ者」(ハズレ者)からの人材で、彼らは、これまでの因習や慣例から離れ、対応事例をニュートラルに見ることができることから、斬新な発想と企画が出てくることが期待できると考えられるのでしょう。身近な例では、このたびの広島県教育委員会の教育長人事がこれに当たるだろうと思われます。確かに、今回の教育長は県外からの人材であり、教育者としては教員経験が少ないことや、40歳台という若さ(教育界の管理職人材では・・)です。また、「バカ者」というのは「大賢は大愚に似たり」の「愚・バカ」の意味であり、深い慧眼さの意味だが、まだ未知数ながらそう見込まれているのであろう。そして、もう一つの目玉人事であるGJ校(グローバル人材中高)の校長人事も同様な発想からの人事異動が行われたようです。

これらは、硬直化的になりがちな系列人事への批判としてインパクトを与えることでそれなりの意味があるといえよう。しかし、系列の破壊に伴う組織的な危機も起こりうる可能性もある。スクラップとビルドは、現実に機能している生身の組織では同時に行われなければならない。系列人事の長所(継続性)は改善・改革しながらも継承されなければならないと考えます。

さらにまた、組織改革は人事だけではなく、システムをふくめた大きなものでなければならないものだと思われます。

2:「重層柔構造」の検討

この組織改革については、第1部・第2部でも論じてきましたが、この第3部でもさらに検討してみましょう。

◎「組織の構造」

ご了解されているように、組織には自由フラット型と秩序階層型の2つがあり、組織が機能するには、自由フラットなものだけでは不完全で、秩序階層的なものが必要となります。しかし、この2つは相反するものであり、ときには対立を引き起こします。現在でも、自由フラットを基調とする協働組合的組織と秩序階層制を重視した経営管理的組織は対立構造となっています。学校や地域での小さなクラブ・サークル活動でも自由型と管理型とはときに対立します。でもこの両者を融合しなければ組織はうまく機能しません。どちらか一方に傾きすぎると組織が崩壊することも多くの事例で了解されるところですし、皆さんも経験されていることだろうと思います。そこで、この2つを結合した組織(「重層構造」)が必要となります。また、この2つを融合するためには柔軟な接合が求められますから、柔軟な接合の工夫が必要です。これが、「TT:シンクタンク」「PT:プロジェクトチーム」「PT:サードプレイス」のミニ組織です。

今回の広島県教育委員会での人事施策も、このような組織の総合的な改善・改革にまで至らないと成功しないのではないか、そして一過性のインパクト寸劇に終わるのではないかと思われます。是非とも、人事刷新が次に緒述べるような「組織改革」にまで至ることを期待したいと思います。

*「図式・・重層柔構造」

スライド1「説明」・・1:「身体構造」は次の3組織です。

*「TT」は,「現場からの一定の選抜によるメンバー」からなり,組織の「構想:GD」の立案・提言に関わり,「先人の知恵」「未来予見」「現場提言」の探究など知的な活動に従事します。彼らの意見・提言は組織トップ層(「CEO」)が尊重することの約束が「制度」として明文化されることが求められます。

*「PT」は,「現場からの自主・自発的エントリーメンバー」からなり,アイディアの発案者が中心となり,「TT」に提起し,「CEO」の了解を得て活動します。「TT」がやや理念的になりがちな時に「PT」が現場的な発案・行動を行いますので,両者は両輪といえるでしょう。これも「制度」として確立される必要があります。

*「TP・第三の場」は,公的と私的の中間の場という意味の言葉であり,まるっきりのフォーマルな場でもプライベートな場でもないことから,仕事に関わる「本音」的な発言や提案が可能な場となります。この「場・時」を,組織内に位置づけることが求められます。

2:「精神構造」・・身体構造を働かせる「組織文化」(環境・雰囲気など)のこと

*まずは、安心・受容の環境・雰囲気作り・・受容のための「和顔愛語」(微笑み・「さしすせそ」の受容言葉など)

*自由・創造の環境・雰囲気の育成・・自己主張と組織革新の意見尊重(少数者の意見の保証など)

・・安心と創造は、やや相反するのでその使い分けの工夫を・・例えば「幼児期には安心を、少年期には自由と創造を」というように組織への馴染み度合いなどの考慮から組織文化も重層型の工夫を・・

 

◎「組織改革の構造」

これについて補足しますと、組織には「ハード」な領域と「ソフト」な領域とがあります。(マッキンゼーの「7Sモデル」参照)

ハードなものは「戦略・組織・システム」(英語の略文字をとって「3S」)であり、本論では「制度」として展開しているものです。これは「形態」として見えるものですし、「構想:GD」でも明示できるものです。この設計には、組織執行役員が中心となって造るもので、組織の基本身体・ボディーとなるものです。

これに対して、ソフトなものは「人材・スキル・スタイル・共有価値観」(これも、英語の略文字の頭文字で「4S」)で、本論では「組織文化・個人意識」として展開しているものです。これは、なかなか可視化できにくく,つかみにくいものですから、一度根付くと変えにくいものです。それはまた、個人意識の底にある「個々の価値観」や「感情」さらには「利害関係」ともつながっているものですから根深いものでもあります。これは、組織身体を支える「血流と神経系」といえるでしょう。

組織改革は、この全体像に関わるものなのですが、今回の人事刷新で何らかの企業文化の刷新が行われてくるのか、さらにシステムの改革にもそれがおよんで「柔構造」への変革が行われるのかこれからの動きに期待したい。

*「7Sモデル」

スライド6

「説明」・・先のシート「重層柔構造」での、「身体構造」に当たるのが「ハードの3S」で「精神構造」に当たるのが「ソフト4S」である。ハードの身体構造は可視化できてその改革も確認しやすいものだが、ソフトの精神構造は見えにくくつかみにくいものである。それだけに、何か問題が起きても3Sの改善・改革に向かい、なかなかは4Sの見直しには向かはないものなのである。

◎「人と企業文化」

ところで、「7Sモデル」では、「共有価値観」を「企業文化」との下部として捉えて、「個々人の価値観」を共通の価値観につなげるものとしていますが、本論ではやや個人意識の本源を重視しています。「個人意識」が「組織文化」に従属するものとする方が「安定」や「責任体制」の確立には効果的ですが、これだけでは、「規格人」への危険性があります。また組織の硬直化ともなります。組織の活性化には、やはり、個々人の思いの根源への掘り下げと、そこからの再構築が求められるように思います。

その「個々人の思い」には、さまざまな「価値観」があります。例えば、やや古典的(それだけに基本形)にはなりますが、E.シュプランガーによると「権力・経済・社会・審美・理論・宗教」の6タイプがあるということです。他にも、「正義・愛・自由・安定・学習・貢献」などの分類法もありますが、要は、個々の価値観は様々であることです。そして、これらの価値観は時には相互に対立することも多いのです。このような対立軸を種々に持った人の集まりが「一般的自然組織」です。だから、国や自治体の政治は難しいのです。学校も、公立学校はやはり難しいのです。高校段階以降となると、その組織は「合目的的組織」となりますので、参加者の価値観は共通化してきます。(例えば、農業系・工業系、普通校でも理科系・文科系など) さらには、企業組織となると,もっと価値観は共通化してくるでしょう。しかし、それでも微妙な価値観の差はありますので、これらが出せて互いに調整(ある意味では妥協)できる「場」が必要です。

さらには、個々人の成長のためには、また組織の成熟のためにも、個々人の価値観の自己検討や他の価値観の研修が求められます。このような学習は、トップダウン型の研修では不可能です。そうではなくて、できるだけ内発型で行われることが、求められるのです。成熟段階での組織の充実にはこのような学習が必要なのです。

そのためにも、前述のように、「ハード3S(戦略・組織・システム)」では「TT」「PT」「TP」の「場」の設定を明示化し、その柔軟小組織の中で、「ソフト4S(人材・スキル・スタイル・共有価値観)」での「柔軟性のある相互人間関係」のための「組織の精神文化」に注目し、「掘り下げ型」の研修や学習とそれによる「内発」の意識や文化の学習が求められます。

◎「人への注目・・研修から学習へ」

先のシュプランガーの6タイプに絡めて考えれば、教育や福祉的な組織に参加する人の価値観はそれなりに共通性があるでしょう。少なし、「権力」や「経済」をトップにおいた人は少ないでしょう。それであるなら、彼らへの職業能力向上のための誘導剤(インセンティヴ)が給与操作ではないはずだろう。「社会」「理論」「審美」的な事柄への関心が高い人に対してはそれらに関わる何かの方法を思考する知恵が必要なのではないだろうか。例えば、「顕彰」や「研修機会」などを用意するなどの工夫が求められます。

また、そうした「社会・理論・審美」の価値観を前提とすれば、これらはその内容は個別的要素の強いものであるから、単純な共通性の「権力・経済」(組織の身体構造)でひとくくりした全体研修では組織員を納得させられないことが了解されます。「社会・理論・審美」では、個々の内面からの発露と相互納得の学習が求められるのです。これは、先に述べた日下公人氏の「人事破壊第5波」の「人本主義」に通じるものとなります。19世紀・20世紀の「組織の時代」が完結して次の時代が出現して来つつあるのかも知れない。これまでのように、「研修体制」を確立し「組織の重要性」を上から説くのではなく、「人の生き方」と組織とのつながりを掘り下げながら思考する「学習形態」が重視されるものとなるだろう。

これまでのような「組織ありき」から「組織の鍵は人」として「人材」の根源を「人」から掘り起こす組織が21世紀型となるのでしょう。・・それは「組織のプロセス論」(「会社は夢で始まり情熱で大きくなり、責任感で安定し官僚制でダメになる」)での、組織の成長過程の「夢と情熱」へと再度回帰させることになるのでしょうか。

*「組織制度と人の是認と育成」

スライド1「説明」・・「研修と学習」

◎「積み上げ」 ・・研修・・*「個人力量UP」・・一般にいわれるように、学校では、「有能」になるように「知識や技能の増加や高まり」を学ばせる・・これが「学力」とされ、学力向上が課題となる・・「順位や偏差値」は重要課題です 。 *「組織協力UP」・・個々人の思いを統制的にまとめて協力体制を作ると組織力は増す・・「統合の理念」を学ばせる研修が役立つ ・・しかし、積み上がらない状態に必ず直面する・・それは・・*「個人力量」では、その学び方が結果重視の短絡的なもので、知識・技能の奥にあるルールやしくみのまで到達していないことから限界が来る。  *「組織協力」では、個々人の思いを抑圧して、組織理念や指示に無理やり合わせてきたこと(「組織従属規格人」)の限界から起こる。

◎「掘り下げ」・・学習へ  ・・*「知の掘り下げ」(探究)が必要だと分かると学力はさらに前進する・・(これが「学習論」の要点) * また、協力では、「心の掘り下げ」で、自己成長の限界や社会体験での負け体験、自己抑制の限界などの「挫折」 体験を経て、真の自分を発見する(それは他者の発見でもある)ことで、協力態勢が進む。

 

・・第2話  終わり・・次は・・柔構造の具体例について検討したい・・

 

 

 

 

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